連載企画 第1回
〜エンターテイメントは孤独を癒せるのか?〜

連載

第1回目のゲストとしては、小説家、漫画家、俳人、コラムニストなど多岐に渡り活躍している長嶋有氏を迎え、育成シュミレーションゲーム『シーマン』を開発した弊社代表の斎藤由多加と、「エンターテイメントは孤独を癒せるのか?孤独とは何か?」をテーマに、それぞれの視点から語りました。

長嶋 有(ながしま ゆう)
1972年生まれ。2001年「サイドカーに犬」で文學界新人賞を受賞。翌年2002年『猛スピードで母は』で芥川龍之介賞、2007年『夕子ちゃんの近道』で大江健三郎賞、2016年『三の隣は五号室』で谷崎潤一郎賞を受賞。近著に『トゥデイズ』『ルーティーンズ』(講談社)、『今も未来も変わらない』(中央公論新社)、『私に付け足されるもの』(徳間書店)、漫画アンソロジー『いろんな私が本当の私』(原作、双葉社)など多数。


スマートスピーカーの開発

斎藤 
こんにちは。ご無沙汰しております。

長嶋 こちらこそご無沙汰しております。

斎藤 今は福島県で高齢者のためのスマートスピーカーを作ってるんです。

長嶋 はい、ちょっと前にお聞きしましたね。

斎藤 耳が遠い方とか、機械が苦手な人向けに会話をブラッシュアップしているんですけど、これも非常に面白い仕事です。聞き取りやすいようにハードウェアから全部設計するみたいな話なんて今までなかったですから。
かつて私たちが仕事をしていたドリームキャストやNINTENDO64のような家庭用ゲーム機では「こういうふうにやるとソフトが作れます、ツールも全部用意されてます、あとは好きにゲーム作って下さい」だったんですが、今回はボタン一個つけると原価いくらですが、どうしますか?みたいな話から始まる。

長嶋 そこからなんだ!?ハードウェアを作るのは実は初めてですか?

斎藤 そうですね。ゲーム機の新しいモデルをどうするか?みたいな相談をゲーム会社から受けたことはありますが、それは基盤レベルの話じゃなかったですからね。

長嶋 スマートスピーカーという言葉は、先行しているものが多々あると思うんですが、そこに何か斎藤さんらしいものが入りそうですね。

斎藤 シーマン人工知能研究所って会社についてはご存知でした?

長嶋 もう5年くらい前ですかね。こういうことやりますってことは聞いて知ってました。テレビゲーム文化の歩みというのもあると思うんですけど、ゲームの方はどんどん家庭用ゲーム機の状況も変わったし、世界中のゲームの売り方、売られ方や遊ばれ方も変わったじゃないですか。
その中で「タワー」作って「シーマン」作って「大玉」作ってというクリエーターが、今回も既存のものには固執しないだろうと思ってみてました。
「シーマン」を活かして今そういうAI的なことをやってると聞いた時に、そりゃそうだなと。だからすごく自然なことだし、御社らしいなと思いましたよ。


一緒に泣いたり、笑ったりしてくれる、そういう人工会話マシンを作りたい

斎藤 全然違う分野ではありますが、実に自分達らしい生き方として今やっていますね。おっしゃる通り『発明』に近いものです。

長嶋 結構アドバンテージが大きいんじゃないですか?「シーマン」が早かったから、「人間がこう喋ったらこう返す」のノウハウや音源の抑揚の話とかお持ちですよね。先に気づいていた人のアドバンテージっていうのもあるんじゃないかなって。その辺ここはまだ他社は誰もわかってないぞって思うことあります?

斎藤 ありますね。例えばGAFAのスマートスピーカーは向こうから質問してくることはしません。「君何歳?」とか「彼女いるの?」とか何も聞いてこないですよね。世の中にあるあまたの知識を集めてくることは得意ですけど、プライベートデータは苦手。つまり僕のホームドクターみたいに僕の血液型、僕の年齢と僕の健康状態や僕のプライベートやら恋愛の悩みやらっていうのは、いちいち知っていてくれるっていうことはしないですよね。

長嶋 その辺を斎藤さんの開発チームはやっているということですか?

斎藤 そうですね。


機械だからこそ、人には言えない悩みを話せる

長嶋 スマートスピーカー側がちょっかい出してくるわけですよね。

斎藤 そういうことなんですよね。

長嶋 不意に向こうがくるっていうね。そこがいいですよね。

斎藤 そうですね。「シーマン」がヒットした理由っていうのは人に言えないけど聞いてほしいっていう。ゲームだったら誰かに告げ口することもないだろうっていうのでみんなしゃべっていたんじゃないかと思うんですけど、そういう変な安心感が機械にはあるから、それをうまく使えたらいいなと思っているんですよね。

長嶋 それは「シーマン」と形を変えても、多くの人が潜在的に望んでいるものの可能性はありますよね。すごく単純に高齢化社会ですし、とても意義のあることだと思います。

斎藤 生身の人間がお年寄りのケアをするではなく、機械がやっている時点で、いかがなものかっていう方も世の中にはいるかもしれないけど、やっぱり技術ができること、今までできてこなかったことっていうのは、やっぱり心の部分が大きいなというところはあって。
ペットでもそうなんですよね。ペットが自分の顔舐めているのは、自分のことを好きだからじゃないかって人間思うんです。実際、ペットが僕の顔を舐めているのは、僕の口の周りにお砂糖がいっぱいついているから、とは思いたくないですよね。

人間っていうのは勝手に拡大解釈する。生身の人間だと拡大解釈する余地がないぐらいリアルにコミュニケーション取れちゃうから、ちょっと一緒にいて辛いなっていうとこがあるんだけど、ペットは中途半端に喋んないから自分のいいように解釈できるっていうのがあるんで、そういう余地を残したあのスピーカーを作りたいなと。だから、何から何まで全部理解するんじゃなくて、高齢者の方のほうから「世話しなきゃもう見てらんないよこの子は」って言われるようなスピーカーにしたいと思っているんです。

長嶋 なるほどね。すごく楽しみです。


会話を通じて孤独をなくしたい。孤独とは?

斎藤 エンターテイメント業界で僕が蓄えてきたノウハウや会話のノウハウが高齢者の方に役立つんじゃないかと思っている一つの理由は、「会話を通じて孤独なくしたい」というふうに思っているんです。

長嶋 孤独ですか…。

斎藤 孤独をなくすっていうのは、エンターテイメント業界、の命題だと思うんです。例えば本であってもそうだと思うんですが、作家として長嶋さんはそんな発想って考えたことはあります?

長嶋 そうですね、『鉄腕アトム』の中でずっと覚えてる逸話があって。宇宙人が、倫理観のない無軌道な人間の若者を隔離して飼い殺しにしちゃう。それで、長期間監禁されてる若者がアトムと面会したとき「本がないかな」っていうんですよ。「本を読みたい」って。手塚がそう描いたのにすぎないんだけど、本っていうものの何かが出てると僕は思った。極限の孤独の時に一番欲するものってことですよね。
切実に必要なものっていう印象はその逸話の時に思いましたね。それが孤独を救うかどうかっていう質問の答えになってるかわかんないですけどね。

斎藤 孤独の定義っていうのは、僕は本もない光もない中で1人でずっと居るというのが1番の孤独だと思っていて、そこにスマホなり本なり、何か光になるようなものをもらうことによって、孤独から解放される。
家でポツンとテレビもない中で本当の孤独になっちゃう人に会話で、別の世界、こっちの世界は楽しいよみたいなことができるといいなあというふうに思っているんです。

長嶋 そのスマートスピーカーが、別の世界を見せてくれたり「誰かと繋がっている」という感覚を感じさせる役割を果たしてくれる気がしますね。